分離課税|医療機関のM&A、譲渡、売却をお考えの皆様へ

分離課税

ぶんりかぜい

分離課税

ぶんりかぜい

分離課税とは、特定の所得について、他の所得と合算せずに独立して税額を計算する課税方式をいいます。すべての所得を合算して累進的な税率を適用する総合課税と対になる仕組みです。医院の承継では、譲渡側が受け取る対価がどの方式で課税されるかによって手取り額が変わるため、条件を決める前に確認すべき事項です。

この方式が設けられている理由は、所得の性質を考慮するためです。総合課税では所得が多くなるほど高い税率が適用されるため、ある年に一時的に大きな所得が生じると、その年だけ極端に重い負担が生じることになります。長年にわたって積み上がったものが一度に実現する性質の所得について、その年の所得として合算して課税するのは適当でないという考え方から、独立して計算する仕組みが用意されています。

分離課税の対象となる所得のうち、医院の承継に関わるものを挙げます。まず退職所得です。院長が医療法人から受け取る役員退職金は退職所得として扱われ、他の所得と分けて計算されます。勤続年数に応じた控除が設けられており、負担が軽くなる仕組みになっています。承継の対価を退職金という形で受け取る設計が検討されるのは、この扱いによるものです。

次に、土地や建物の譲渡による所得です。診療所の土地や建物を売却した場合、その譲渡益は他の所得と分けて計算されます。保有していた期間の長短によって適用される取扱いが変わる仕組みがあり、長く保有していた不動産については負担が軽くなる方向で整理されています。院長が個人で保有する診療所の不動産を承継に際して売却する場合、この扱いが手取り額に大きく影響します。

株式などの譲渡による所得も、この方式の対象です。一定の範囲の有価証券について、他の所得と分けて計算する仕組みが設けられています。

ここで医院の承継において重要な論点があります。医療法人の出資持分を譲渡した場合、その所得がどの課税方式で扱われるのかという点です。医療法人の持分は株式会社の株式とは異なる性質を持つため、その扱いについては持分の性質や取引の形態によって整理が分かれる領域です。また、社員を退社して法人から持分の払戻しを受ける形と、持分を第三者に譲渡する形とでは、所得の区分そのものが異なる整理となる場合があります。所得の区分が変われば適用される計算方法も変わり、結果として手取り額に差が生じます。

この差は小さなものではありません。分離課税として計算されるのか、総合課税として他の所得と合算されるのかによって、負担額は大きく変わり得ます。医療法人は剰余金の配当が禁止されているため、長年の利益が法人内部に蓄積されており、持分の評価額は相当な額になっていることがあります。その金額が一度に実現する場面で、どの方式が適用されるかは手取りを左右する決定的な要素になります。

したがって、医療法人の承継を検討する際には、資金をどの形で受け取るかを事前に試算しておく必要があります。譲渡対価として受け取るのか、退社に伴う払戻しとして受け取るのか、役員退職金という形を組み合わせるのか。それぞれの組み合わせによって手取り額は変わります。承継の条件を決めてから税務を検討するのでは順序が逆で、試算を踏まえて条件を設計するのが本来の進め方です。

個人立の診療所を事業譲渡で引き継ぐ場合も、同じ考え方が当てはまります。譲渡対価は資産の種類ごとに内訳を定めることになり、土地の譲渡益は分離課税の対象となりますが、営業権や医療機器の譲渡による所得は別の区分として扱われます。契約書に記載する内訳の設定が、手取り額に直結するということです。

なお、この領域の取扱いは税法の改正によって変わることがあり、また個別の事情によって判断が分かれる場合があります。ここに記した内容は仕組みの考え方を示すものであり、具体的な計算や適用の可否については、必ず医療分野に詳しい税理士に確認を依頼することをおすすめします。承継の交渉に入る前の段階で、複数の受け取り方について試算を出してもらうのが実務的な進め方です。
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