成長戦略|医療機関のM&A、譲渡、売却をお考えの皆様へ

成長戦略

せいちょうせんりゃく

成長戦略

せいちょうせんりゃく

成長戦略とは、事業を伸ばしていくための方針と施策の総称です。医院の承継では、引き継いだ後に医院をどう運営し、どこを伸ばしていくかという計画を指します。承継は前院長のやり方をそのまま引き継ぐだけで完結するものではなく、承継後の方向性を描けているかどうかが、その後の経営を左右します。

承継後の成長戦略が重要になる理由は二つあります。一つは、譲渡対価を支払うために借入をしている場合、その返済を続けられる収益を確保しなければならないという点です。もう一つは、医院の収益構造が時間とともに変わっていくという点です。通院している患者さんは年を重ね、いずれ通院しなくなります。新しい患者さんが入ってこなければ、患者数は自然に減っていきます。現状を維持しようとするだけでは、実質的には縮小に向かうことになります。

診療内容の見直しは、代表的な打ち手です。前院長が手がけていなかった検査や処置を加える、専門としてきた領域を活かして特定の疾患に力を入れる、予防接種や健診の受託を増やす、といった形があります。承継する医師が勤務先で培ってきた専門性は、そのまま医院の強みになり得ます。ただし急に診療の中身を変えれば、それまで通院していた患者さんが戸惑います。既存の診療を維持しながら少しずつ加えていくという順序が求められます。

診療体制の設計も検討対象です。診療日や診療時間を患者さんの生活に合わせて見直す、非常勤の医師を招いて診療枠を増やす、予約制を導入して待ち時間を短縮する、といった打ち手があります。院長一人で診療している状態から複数の医師が関わる体制に移せば、収益の安定性が高まるだけでなく、院長個人への依存度も下がります。

設備投資は、慎重な判断が必要な領域です。承継直後は借入の返済が始まる時期でもあり、資金に余裕がありません。老朽化した機器の入れ替えは避けられないとしても、新たな検査機器の導入は、それによって増える収益と投資額を見比べて判断します。デューデリジェンスの段階で設備の状態と入れ替えの見込みを把握しておけば、承継後の投資計画を立てやすくなります。

地域との連携も成長の要素です。近隣の病院との紹介関係、在宅医療で連携する訪問看護ステーションやケアマネジャーとのつながり、介護施設への協力医としての関わりといった関係は、患者さんの流れをつくります。前院長が築いてきた関係を引き継ぐこと、そして新たな連携を広げていくことが、患者数の維持と拡大につながります。地域の医師会での役割を引き継ぐことも、この一環として位置づけられます。

一方で、医院の成長戦略には他業種にない制約があります。集患のための情報発信は、医療法に基づく広告規制の枠内で行う必要があり、患者の体験談を掲載する、治療前後の写真で効果を示す、他院より優れていると表示するといった手法は認められていません。診療報酬は公的に定められているため、価格を自由に設定して収益を上げるという発想も当てはまりません。自費診療を組み合わせる場合も、保険診療との関係を整理して進める必要があります。

スタッフの体制も成長の前提になります。診療枠を増やすには看護師や医療事務の人員が必要で、採用と定着の見通しがなければ計画は実行できません。承継直後は前院長のやり方に慣れたスタッフが残っている時期であり、その信頼を得ることが最初の課題になります。運営を変える前に、まず現場の理解を得るという順序が実務上は重要です。

成長戦略は、買い手が案件を検討する段階から必要になるものです。この医院を引き継いで何をするのかという構想がなければ、譲渡対価が妥当かどうかも判断できません。診療圏の状況と自身の専門性を踏まえて、承継後の計画を早い段階で描いておくことをおすすめします。
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