退職所得|医療機関のM&A、譲渡、売却をお考えの皆様へ

退職所得

たいしょくしょとく

退職所得

たいしょくしょとく

退職所得とは、退職に伴って受け取る金銭などに関する所得の区分をいいます。給与所得や事業所得とは別の区分として扱われ、他の所得と合算せずに独立して計算する分離課税の対象となります。加えて、勤続年数に応じた控除が設けられており、他の所得区分と比べて負担が軽くなる仕組みになっています。医院の承継では、譲渡側の手取り額を左右する重要な要素です。

この区分に特別な扱いが設けられている理由は、退職金の性質にあります。退職金は、長年にわたって勤務してきたことに対して支払われるものであり、その年だけの所得ではありません。また、退職後の生活を支える資金としての意味を持ちます。これを一年分の所得として他の所得と合算すれば、累進的な税率によって極端に重い負担が生じます。そこで、他の所得と分けて計算し、勤続年数に応じた控除を設けることで負担を調整しています。

医院の承継においてこの区分が関わるのは、主に二つの場面です。

一つは、院長自身が受け取る役員退職金です。医療法人の理事長を退任する際、法人から退職金を受け取ることができます。承継の対価を譲渡対価として受け取るのか、役員退職金として受け取るのか、あるいは両方を組み合わせるのかによって、適用される所得区分が変わり、手取り額に差が生じます。退職所得として扱われるのであれば、勤続年数に応じた控除が適用され、他の所得と合算されないという利点があります。

特に意味を持つのが、基金拠出型など持分のない医療法人の承継です。この類型には譲渡できる持分が存在しないため、法人に蓄積された財産を持分の対価として受け取ることができません。そのため、役員退職金という形で受け取る設計が中心的な検討事項になります。長年にわたって法人に蓄積してきた財産を、退職所得という区分で受け取るという整理です。

ただし注意すべき点があります。役員退職金の額が職務の内容や法人の規模、同業の水準に照らして過大と判断されれば、その超える部分は法人側で損金として認められません。在任期間、退職時の報酬水準、法人への貢献度を踏まえた妥当な範囲であることを説明できる根拠を整えておく必要があります。支給には社員総会の決議など、法人の手続きも求められます。また、在任期間が短い役員については、退職所得の計算において通常とは異なる取扱いが適用される仕組みがあるため、承継の直前に理事長に就任したような場合には確認が必要です。

もう一つの場面は、スタッフの退職金です。個人立の診療所を事業譲渡で引き継ぐ場合、雇用関係は自動的には承継されず、譲渡側での退職と譲受側での再雇用という形をとるのが原則です。この際、それまでの勤続分について退職金を精算して支払う方法を選べば、受け取るスタッフの側では退職所得として扱われます。勤続年数を引き継ぐ扱いとし、将来の支払いを買い手が負担する方法もあり、その場合はその負担額を譲渡価格から差し引く調整が行われます。どちらを選ぶかは、スタッフにとっての税負担にも関わります。

個人立の診療所の場合、院長本人については役員退職金という考え方が当てはまりません。事業主であるため、自らに退職金を支払うという仕組みがないのです。この点は法人形態による違いとして押さえておくべき事項で、個人立の診療所を承継する院長の手取りは、譲渡対価の設計によって決まることになります。

実務上の進め方としては、承継の条件を決める前に複数の受け取り方について試算を出してもらうことが重要になります。譲渡対価のみ、役員退職金のみ、両者の組み合わせといった案ごとに、手取り額と法人側の損金算入の可否を並べて比較します。加えて、所得が集中する年の翌年には住民税や社会保険料の負担が増えるため、その資金も見込んでおく必要があります。

なお、この領域の取扱いは税法の改正によって変わることがあり、個別の事情によって判断が分かれる場合もあります。具体的な計算と適用の可否については、必ず医療分野に詳しい税理士に確認を依頼することをおすすめします。
閉じる
検討中の案件
0