退職金規定|医療機関のM&A、譲渡、売却をお考えの皆様へ

退職金規定

たいしょくきんきてい

退職金規定

たいしょくきんきてい

退職金規定とは、退職金の支給の要件、算定の方法、支給の時期を定めた規程をいいます。退職金規程とも書かれます。就業規則の一部として定められる場合と、独立した規程として設ける場合があります。医院の承継では、潜在的な負担の大きさを測る資料として、デューデリジェンスで必ず確認されます。

そもそも退職金の支給は、法律で義務づけられているものではありません。制度を設けるかどうかは各医院の判断です。ただし規定を設けた場合、あるいは規定がなくても長年にわたって支給を続けてきた実績がある場合には、支払う義務が生じると判断されることがあります。慣行として定着していれば、規定の有無にかかわらず責任が発生し得るという点は、承継の場面で確認すべき事項です。

規定に定められる内容は、まず支給の対象です。正職員に限るのか、パートタイムのスタッフを含めるのか、勤続何年以上を要件とするかという点です。医院では非常勤のスタッフが多く在籍することがあるため、この線引きが実務上重要になります。次に算定の方法で、退職時の基本給に勤続年数に応じた支給率を掛ける方式、勤続年数ごとに定額を積み上げる方式、ポイントを積み上げる方式などがあります。さらに、自己都合と会社都合で支給率に差を設けるか、懲戒による退職の場合に減額または不支給とするかという定めも置かれます。

医院の承継でこの規定が重視される最大の理由は、引当金が計上されていないことが多いという実情にあります。規定を設けて退職金を支払う約束をしているにもかかわらず、その負担が貸借対照表に現れていないという状態です。長く勤めているスタッフが複数いれば、規定に沿って計算した金額は相当な額になります。これは簿外債務として扱われ、価格の調整や契約条項の設計に影響します。

承継の場面での扱いは、スキームによって変わります。個人立の診療所を事業譲渡で引き継ぐ場合、雇用関係は自動的には承継されず、譲渡側での退職と譲受側での再雇用という形をとるのが原則です。この際、譲渡側がそれまでの勤続分について退職金を精算して支払い、承継後は勤続年数をゼロから数え直すという整理が一つの方法です。もう一つは、勤続年数を引き継ぐ扱いとし、将来の支払いを買い手が負担するという方法です。後者を選ぶ場合、その負担額を譲渡価格から差し引くという調整が行われます。

医療法人の持分を譲渡する形では、法人格がそのまま残るため、雇用関係も退職金の規定も引き続き適用されます。将来の支払い義務も法人に残ることになり、把握できていない負担も承継されます。このため、規定の内容と対象となるスタッフの勤続年数を確認する作業が欠かせません。

もう一つ、医院の承継に固有の論点があります。院長自身の退職金です。医療法人であれば、院長は役員として退職金を受け取ることができます。役員退職金は、譲渡対価として受け取る場合とは税務上の扱いが異なり、退職所得として勤続年数に応じた控除が設けられているため、受け取り方によって手取り額が変わります。承継の条件を決める際は、譲渡対価と役員退職金の配分をどうするかが実務上の検討事項になります。

ただし、役員退職金の額が過大と判断されれば、税務上は損金として認められない可能性があります。在任期間、退職時の報酬水準、法人への貢献度といった要素を踏まえた妥当な範囲であることを説明できる根拠を整えておく必要があります。支給には社員総会の決議など、法人の手続きも求められます。

個人立の診療所の場合、院長は事業主であるため役員退職金という考え方が当てはまりません。この点も、法人形態による違いとして押さえておくべき事項です。

譲渡側の準備としては、規定の有無と内容を確認し、対象となるスタッフごとに現時点での支給見込額を算出しておくことが有効です。金額が明らかになっていれば、交渉の場で不意に持ち出されることがなくなります。社会保険労務士や医療分野に詳しい税理士に確認を依頼しておくことをおすすめします。
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