純資産|医療機関のM&A、譲渡、売却をお考えの皆様へ

純資産

じゅんしさん

純資産

じゅんしさん

純資産とは、資産から負債を差し引いた正味の価値を指す概念です。貸借対照表の右下に表示される部分で、通常は帳簿に記載された金額、すなわち簿価の純資産を指して使われます。医院の承継では、譲渡価格を算定する際の土台となる数字であり、ここに収益力を評価したのれん代を上乗せする形で対価の水準を検討していきます。

個人立の診療所であれば、純資産の中身は比較的分かりやすいものです。土地や建物、医療機器、内装、医薬品や診療材料の在庫、レセプトの請求による未収金、現金や預金といった資産から、借入金、買掛金、未払金といった負債を差し引いた残りが純資産にあたります。ただし個人経営の場合、院長個人の資産と医院の資産が混在していることが多く、線引きが曖昧なままだと純資産の額そのものが不明確になります。

医療法人の純資産には、株式会社とは異なる特徴があります。最も大きいのが、剰余金の配当が禁止されているという点です。医療法人は非営利法人であるため、利益が出ても出資者や社員に分配することができません。その結果、毎年の利益が法人の内部に蓄積され続けます。長く運営してきた医療法人では、この内部留保が相当な額に積み上がっていることがあります。

この構造は、承継において二つの意味を持ちます。一つは、法人が財務的に安定しているという評価につながることです。もう一つは、承継の際の負担が重くなるという点です。持分のある医療法人では、蓄積された内部留保がそのまま出資持分の評価額に反映されます。医院の業績が良く、長く堅実に運営されてきた法人ほど、持分の価値が高くなり、引き継ぐ側が用意すべき資金や、相続の場面で後継者が負う納税額が大きくなります。

純資産の部の表示も、法人の類型によって変わります。持分のある医療法人では出資金という科目が置かれ、出資者が拠出した金額が計上されます。基金拠出型など持分のない医療法人では、基金という科目が用いられ、これは返還義務を伴う拠出として整理されます。株式会社の資本金や資本剰余金とは性質が異なるため、株式会社の貸借対照表を読む感覚をそのまま当てはめると誤解が生じます。

承継の場面で確認すべきなのは、帳簿上の純資産が実態を表しているかという点です。土地を取得した当時の価格で計上したまま時価が大きく変わっている、医療機器を償却し終えて帳簿上はほとんど価値がないことになっているが実際には使える、逆に帳簿に載っている設備がすでに使われていない、といった状況は珍しくありません。回収の見込みが薄い未収金が資産に残っていることもあります。

負債の側にも注意が必要です。退職金の規定があるのに引当が計上されていない、残業代の未払いがある、係争中の案件を抱えている、といった場合、帳簿には現れない負担が存在します。これらは簿外債務と呼ばれ、医療法人を引き継ぐ場合は法人格が残るため、そのまま承継されることになります。純資産の数字を見るだけでは把握できない部分です。

こうした差を埋めるために行うのが、資産と負債を時価に引き直す作業です。その結果として得られるのが時価純資産であり、譲渡価格の算定では簿価ではなくこちらが用いられます。

純資産は、医院の財務状態を最も端的に示す数字ですが、それだけで価値が決まるわけではありません。患者基盤や立地といった収益力に関わる価値は純資産に含まれないためです。自院の純資産が実態と合っているかを早い段階で確認しておくことが、承継の準備につながります。医療分野に詳しい税理士に相談しながら整理しておくことをおすすめします。
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