純資産法
じゅんしさんほう
純資産法とは、帳簿に記載された純資産、すなわち簿価の純資産を基礎として価値を算定する手法をいいます。簿価純資産法とも呼ばれます。資産と負債を時価に引き直す時価純資産法に対し、決算書の数字をそのまま用いる点が特徴です。評価手法の分類ではコストアプローチに属します。
この手法の利点は、算定が簡単で客観的なことです。決算書を見れば誰でも同じ金額を計算でき、判断の余地がほとんど入りません。不動産の鑑定を依頼したり、医療機器を一つずつ確認したりする手間もかかりません。承継を検討し始めた段階で、大まかな目安を素早くつかむ用途には向いています。
しかし医院の承継において、この手法が単独で使われることはほとんどありません。理由は二つあります。
一つ目は、帳簿の数字が実態から離れていることが多いという点です。医院の資産の中で最も金額が大きいのは土地と建物ですが、これらは取得した当時の価格で計上されたままになっています。開業から二十年、三十年が経過した医院であれば、その金額と現在の市場価格には大きな差が生じています。医療機器も同様で、償却が終わって帳簿上はほとんど価値がないことになっている装置が、実際にはまだ十分に使えるという状況は珍しくありません。逆に、帳簿に残っているものの型式が古く使われていない設備もあります。
負債の側も同じです。退職金の規定があるのに引当金が計上されていない、残業代の未払いがある、テナントの原状回復義務が残っている、といった帳簿に現れない負担は簿価には反映されません。医療法人を引き継ぐ場合、法人格が残るためこうした負担も承継されることになり、簿価だけを見て判断すると引き継いだ後に想定外の負担が現れます。
二つ目は、収益力がまったく反映されないという点です。純資産法が捉えるのは保有資産の帳簿価額のみで、すでに通院している患者さんがいるという状態、地域で選ばれてきた実績、長く勤めているスタッフ、立地の優位性といった要素は考慮されません。医院の価値の多くはこうした無形の要素にあるため、純資産法で算定した金額は実際の譲渡価格から大きく離れることになります。
そのため医院の承継では、まず資産と負債を時価に引き直して時価純資産を算定し、そこに収益力を評価したのれん代を上乗せする形が取られます。時価に引き直した純資産に正常収益力の数年分を加算する年買法が実務の中心であり、純資産法はその前段階の参考値という位置づけになります。
とはいえ、純資産法が意味を持つ場面もあります。まず、承継の検討を始めたばかりの段階で、自院の財務状態の大枠を把握する用途です。決算書があればすぐに計算できるため、詳しい調査に入る前の目安として使えます。次に、時価との差を確認する起点としての用途です。簿価と時価を並べることで、どの資産に含み益や含み損があるのかが見えてきます。土地に大きな含み益があるのか、設備の入れ替えが必要なのかといった論点が浮かび上がります。
また、医療法人の内部留保の状況を確認する際にも参考になります。医療法人は剰余金の配当が禁止されているため、毎年の利益が法人内に蓄積されます。長く運営してきた法人では簿価純資産が相当な額に達していることがあり、その水準が持分の評価額や後継者の納税負担に関わってきます。
純資産法は、簡便さと引き換えに精度を犠牲にした手法です。目安として使うにとどめ、実際の交渉では時価への引き直しと収益力の評価を行うことが前提になります。自院の簿価と時価の差がどこにあるのかを、医療分野に詳しい税理士と早めに確認しておくことをおすすめします。
この手法の利点は、算定が簡単で客観的なことです。決算書を見れば誰でも同じ金額を計算でき、判断の余地がほとんど入りません。不動産の鑑定を依頼したり、医療機器を一つずつ確認したりする手間もかかりません。承継を検討し始めた段階で、大まかな目安を素早くつかむ用途には向いています。
しかし医院の承継において、この手法が単独で使われることはほとんどありません。理由は二つあります。
一つ目は、帳簿の数字が実態から離れていることが多いという点です。医院の資産の中で最も金額が大きいのは土地と建物ですが、これらは取得した当時の価格で計上されたままになっています。開業から二十年、三十年が経過した医院であれば、その金額と現在の市場価格には大きな差が生じています。医療機器も同様で、償却が終わって帳簿上はほとんど価値がないことになっている装置が、実際にはまだ十分に使えるという状況は珍しくありません。逆に、帳簿に残っているものの型式が古く使われていない設備もあります。
負債の側も同じです。退職金の規定があるのに引当金が計上されていない、残業代の未払いがある、テナントの原状回復義務が残っている、といった帳簿に現れない負担は簿価には反映されません。医療法人を引き継ぐ場合、法人格が残るためこうした負担も承継されることになり、簿価だけを見て判断すると引き継いだ後に想定外の負担が現れます。
二つ目は、収益力がまったく反映されないという点です。純資産法が捉えるのは保有資産の帳簿価額のみで、すでに通院している患者さんがいるという状態、地域で選ばれてきた実績、長く勤めているスタッフ、立地の優位性といった要素は考慮されません。医院の価値の多くはこうした無形の要素にあるため、純資産法で算定した金額は実際の譲渡価格から大きく離れることになります。
そのため医院の承継では、まず資産と負債を時価に引き直して時価純資産を算定し、そこに収益力を評価したのれん代を上乗せする形が取られます。時価に引き直した純資産に正常収益力の数年分を加算する年買法が実務の中心であり、純資産法はその前段階の参考値という位置づけになります。
とはいえ、純資産法が意味を持つ場面もあります。まず、承継の検討を始めたばかりの段階で、自院の財務状態の大枠を把握する用途です。決算書があればすぐに計算できるため、詳しい調査に入る前の目安として使えます。次に、時価との差を確認する起点としての用途です。簿価と時価を並べることで、どの資産に含み益や含み損があるのかが見えてきます。土地に大きな含み益があるのか、設備の入れ替えが必要なのかといった論点が浮かび上がります。
また、医療法人の内部留保の状況を確認する際にも参考になります。医療法人は剰余金の配当が禁止されているため、毎年の利益が法人内に蓄積されます。長く運営してきた法人では簿価純資産が相当な額に達していることがあり、その水準が持分の評価額や後継者の納税負担に関わってきます。
純資産法は、簡便さと引き換えに精度を犠牲にした手法です。目安として使うにとどめ、実際の交渉では時価への引き直しと収益力の評価を行うことが前提になります。自院の簿価と時価の差がどこにあるのかを、医療分野に詳しい税理士と早めに確認しておくことをおすすめします。