時価純資産法|医療機関のM&A、譲渡、売却をお考えの皆様へ

時価純資産法

じかじゅんしさんほう

時価純資産法

じかじゅんしさんほう

時価純資産法とは、資産と負債を時価に引き直して算定した純資産を基礎として、対象の価値を評価する手法をいいます。保有している資産の実質的な価値に着目する考え方で、評価手法の分類ではコストアプローチに属します。医院の承継では、譲渡価格を検討する際の出発点として広く用いられています。

この手法が実務で選ばれる理由は、根拠が明確で双方が納得しやすいことにあります。土地はいくら、建物はいくら、医療機器はいくらという形で一つずつ積み上げていくため、なぜその金額になるのかを説明できます。将来の予測を前提としないため、算定する人によって結果が大きく変わることもありません。譲渡側と承継側が初めて金額の話をする場面で、共通の土台として機能します。

一方で、この手法だけでは医院の価値を表しきれません。時価純資産法が捉えるのは、あくまで保有している資産の価値です。すでに通院している患者さんがいるという状態、地域で選ばれてきた実績、長く勤めているスタッフ、立地の優位性といった要素は、貸借対照表に載らないため反映されません。同じ設備と同じ広さの物件を持つ二つの医院があっても、一方は患者数が安定して増えており、もう一方は減少が続いているという場合、時価純資産法では同じ金額になってしまいます。

そのため医院の承継では、時価純資産法で算定した金額に、収益力を評価した部分を上乗せする形が取られます。この上乗せ分がのれん代にあたります。時価に引き直した純資産に、役員報酬や一時的な費用を調整した正常収益力の数年分を加算する方法が年買法と呼ばれ、診療所の承継では最も多く用いられています。上乗せする年数はおおむね二年から五年程度が目安とされます。つまり時価純資産法は単独で完結する手法ではなく、収益力の評価と組み合わせて使われるものと理解しておく必要があります。

医院に適用する際に確認すべき点がいくつかあります。まず不動産の評価です。診療所の土地や建物は資産の中で最も金額が大きく、その評価が結果を左右します。売買事例を参考にするのか、収益還元の考え方で見るのか、公的な評価額を基礎とするのかによって金額は動きます。承継の対象に不動産を含めるのか、院長が保有したまま賃貸として貸すのかによっても、算定の枠組みが変わります。

次に医療機器です。帳簿上は償却が終わっていても実際には使える設備がある一方、型式が古く保守部品の供給が終わっている設備もあります。実際に使える価値を見るという原則に沿って、一つずつ確認していく作業が必要です。承継後すぐに入れ替えが必要な機器があれば、その費用を差し引く形で調整します。

負債の洗い出しも欠かせません。退職金の引当が計上されていない、残業代の未払いがある、テナントの原状回復義務が残っている、といった帳簿に現れない負担を織り込みます。医療法人を引き継ぐ場合は法人格が残るため、過去の税務処理や契約上の負担まで確認の範囲が広がります。

時価純資産法が単独で用いられる場面もあります。赤字が続いている医院、患者数の減少が止まらない医院、診療圏の人口が大きく減っている地域の医院では、収益力を評価する根拠が乏しいため、上乗せをせず時価純資産のみで金額を決めることがあります。閉院した場合に手元に残る金額を試算する際にも、この手法が基準になります。承継と閉院を比較して判断する場面では、意味のある目安になります。

時価純資産法は、医院の価値の下限を示す手法と考えると理解しやすくなります。この金額を土台に、収益力をどう評価するかが交渉の中心になります。資産の評価根拠を整理しておくことが交渉の説得力につながりますので、医療分野に詳しい税理士に相談しながら進めることをおすすめします。
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