競業避止義務
きょうぎょうひしぎむ
競業避止義務とは、譲渡した後の一定期間、一定の地域において同じ業種の事業を行わないという義務をいいます。医院の承継では、前院長が近隣で新たに診療所を開くことを制限する取り決めとして、最終契約に置かれます。
この条項が医院の承継で特に重要になるのは、患者さんが医師個人について移動するという性質があるからです。一般の事業であれば、譲渡した後に元の経営者が近隣で同じ商売を始めても、顧客のすべてが移るわけではありません。しかし医院の場合、長年診てもらってきた医師が近くで新しく開院すれば、多くの患者さんはそちらに通うことになります。買い手はのれん代として患者基盤の価値に対価を支払っているため、その基盤が失われれば、支払った金額の根拠そのものが崩れます。
考えられる事態は、意図的な場合に限りません。承継を終えた前院長が、しばらくして診療への意欲を取り戻し、規模を小さくして再開業するという例があります。あるいは、知人の医院で非常勤として診療を始め、そこに以前の患者さんが移っていくという形もあります。悪意がなくとも結果は同じであるため、あらかじめ範囲を定めておく必要があります。
定める内容は三つの要素で構成されます。まず期間です。医院の承継では、三年から五年程度で設定されることが多くあります。承継後の患者基盤が新院長に定着するまでに要する期間を目安とする考え方です。次に地域です。診療所を開くことを制限する範囲を、市区町村や半径何キロメートルといった形で具体的に定めます。診療圏の広さは診療科によって変わるため、内科や小児科のように近い範囲から患者さんが来る診療科では狭く、専門性の高い診療科では広めに設定するという調整がなされます。
三つ目は制限される行為の範囲です。自ら診療所を開設することだけを制限するのか、他院で勤務医として診療することも含めるのか、非常勤としての勤務を含めるのかという点です。医療法人の役員に就任することを制限に含める場合もあります。ここを曖昧にしておくと、実質的に患者さんが流出しても違反とは言えないという事態が生じます。
一方で、制限を無制限に広げることはできません。医師にとって診療は職業そのものであり、職業選択の自由との関係で、合理的な範囲を超える制限は効力を認められない可能性があります。期間が極端に長い、地域が広すぎる、あらゆる形の医療行為を禁じるといった内容は、争いになった場合に無効と判断されるおそれがあります。譲渡対価に見合った合理的な範囲であることが求められます。
医院の承継では、この条項と引継ぎ期間の設計が組み合わされます。承継後も前院長が非常勤として当該医院で診療を続ける形であれば、その診療は制限の対象から除外する必要があります。どの医院での診療であれば許容されるのかを、契約上明確にしておきます。
違反した場合の取り決めも定められます。損害賠償を請求するという形が基本ですが、実際に生じた損害を金額として立証することは容易ではありません。そのため、違約金の額をあらかじめ定めておく方法が用いられます。差止めを請求できるという条項が置かれることもあります。
譲渡側の立場から確認しておくべき点があります。まず、引退後の生活設計と矛盾しないかという点です。承継後に週に数日どこかで診療を続けたいと考えているのであれば、その希望を条件に反映させておく必要があります。次に、家族への影響です。同じ診療科の医師である配偶者やお子さんが近隣で開業する予定があるのであれば、制限の対象に含まれるかを確認します。義務を負う対象を本人に限定するのか、親族まで広げるのかは交渉の対象です。
競業避止義務は、買い手にとっては支払った対価を守る仕組みであり、譲渡側にとっては引退後の自由を制限するものです。双方の事情を踏まえた範囲に落とし込む必要がありますので、契約書の文言を弁護士や医療分野に詳しい専門家に確認してもらうことをおすすめします。
この条項が医院の承継で特に重要になるのは、患者さんが医師個人について移動するという性質があるからです。一般の事業であれば、譲渡した後に元の経営者が近隣で同じ商売を始めても、顧客のすべてが移るわけではありません。しかし医院の場合、長年診てもらってきた医師が近くで新しく開院すれば、多くの患者さんはそちらに通うことになります。買い手はのれん代として患者基盤の価値に対価を支払っているため、その基盤が失われれば、支払った金額の根拠そのものが崩れます。
考えられる事態は、意図的な場合に限りません。承継を終えた前院長が、しばらくして診療への意欲を取り戻し、規模を小さくして再開業するという例があります。あるいは、知人の医院で非常勤として診療を始め、そこに以前の患者さんが移っていくという形もあります。悪意がなくとも結果は同じであるため、あらかじめ範囲を定めておく必要があります。
定める内容は三つの要素で構成されます。まず期間です。医院の承継では、三年から五年程度で設定されることが多くあります。承継後の患者基盤が新院長に定着するまでに要する期間を目安とする考え方です。次に地域です。診療所を開くことを制限する範囲を、市区町村や半径何キロメートルといった形で具体的に定めます。診療圏の広さは診療科によって変わるため、内科や小児科のように近い範囲から患者さんが来る診療科では狭く、専門性の高い診療科では広めに設定するという調整がなされます。
三つ目は制限される行為の範囲です。自ら診療所を開設することだけを制限するのか、他院で勤務医として診療することも含めるのか、非常勤としての勤務を含めるのかという点です。医療法人の役員に就任することを制限に含める場合もあります。ここを曖昧にしておくと、実質的に患者さんが流出しても違反とは言えないという事態が生じます。
一方で、制限を無制限に広げることはできません。医師にとって診療は職業そのものであり、職業選択の自由との関係で、合理的な範囲を超える制限は効力を認められない可能性があります。期間が極端に長い、地域が広すぎる、あらゆる形の医療行為を禁じるといった内容は、争いになった場合に無効と判断されるおそれがあります。譲渡対価に見合った合理的な範囲であることが求められます。
医院の承継では、この条項と引継ぎ期間の設計が組み合わされます。承継後も前院長が非常勤として当該医院で診療を続ける形であれば、その診療は制限の対象から除外する必要があります。どの医院での診療であれば許容されるのかを、契約上明確にしておきます。
違反した場合の取り決めも定められます。損害賠償を請求するという形が基本ですが、実際に生じた損害を金額として立証することは容易ではありません。そのため、違約金の額をあらかじめ定めておく方法が用いられます。差止めを請求できるという条項が置かれることもあります。
譲渡側の立場から確認しておくべき点があります。まず、引退後の生活設計と矛盾しないかという点です。承継後に週に数日どこかで診療を続けたいと考えているのであれば、その希望を条件に反映させておく必要があります。次に、家族への影響です。同じ診療科の医師である配偶者やお子さんが近隣で開業する予定があるのであれば、制限の対象に含まれるかを確認します。義務を負う対象を本人に限定するのか、親族まで広げるのかは交渉の対象です。
競業避止義務は、買い手にとっては支払った対価を守る仕組みであり、譲渡側にとっては引退後の自由を制限するものです。双方の事情を踏まえた範囲に落とし込む必要がありますので、契約書の文言を弁護士や医療分野に詳しい専門家に確認してもらうことをおすすめします。