繰越欠損金|医療機関のM&A、譲渡、売却をお考えの皆様へ

繰越欠損金

くりこしけっそんきん

繰越欠損金

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繰越欠損金とは、過去の事業年度に生じた赤字を、将来の事業年度の所得と相殺するために繰り越せる金額をいいます。ある年に損失が出て、翌年以降に利益が出た場合、その損失を差し引いた残りに対して課税されるという仕組みです。医院の承継では、対象となる医療法人がこれを保有している場合に、承継後も使えるかどうかが論点になります。

制度の趣旨は、課税の公平を保つことにあります。事業の業績は年ごとに変動します。ある年に大きな赤字を出し、翌年に同程度の黒字を出した法人が、黒字の年に満額の税負担を求められるとすれば、二年を通して見れば利益が出ていないのに税金だけを払うことになります。損失を繰り越して相殺できる仕組みは、この不均衡を調整するものです。

繰り越せる期間には限りがあり、一定の年数を経過した欠損金は使えなくなります。また、控除できる金額に上限が設けられていますが、資本金の規模などによって中小法人に該当する場合は、所得の全額まで控除できる扱いとなります。診療所を運営する医療法人であれば、通常はこの区分に該当します。適用を受けるには、青色申告の承認を受けていることや、帳簿書類を保存していることといった要件があります。

医院で繰越欠損金が生じる場面としては、開業して間もない時期の赤字、大規模な設備投資を行った年の減価償却による赤字、建物の改修や医療機器の入れ替えを行った年、あるいは院長の体調不良によって診療日数が減った年などが挙げられます。院長に多額の退職金を支給した年に赤字となり、その分が繰り越されるという例もあります。

承継の場面で重要なのは、スキームによって扱いがまったく変わるという点です。

まず、個人立の診療所を事業譲渡で引き継ぐ場合です。個人事業における損失の繰越は、その個人に帰属するものであり、事業を譲り受けた側に移ることはありません。承継後の新しい開設者は、自身の事業として新たに申告を行うことになります。したがって、この形では繰越欠損金が承継の材料になることはありません。

次に、医療法人の出資持分を譲渡する形、あるいは社員の入れ替えと役員変更によって経営権を移す形です。この場合、法人格がそのまま残るため、法人が保有する繰越欠損金も引き続き法人に帰属します。承継後に利益が出れば、その欠損金と相殺できる可能性があります。買い手にとっては、税負担を抑えられるという点で価値のある資産と見ることができます。

ただし、無条件に使えるわけではありません。税法には、支配関係が変わった後に欠損金の利用を制限する規定が置かれています。休眠状態にあった法人を買い取って自らの事業の利益と相殺するといった、租税回避を目的とした利用を防ぐための仕組みです。事業の継続性や規模の変化といった要件によって、繰越欠損金の一部または全部が使えなくなる場合があります。医療法人の承継においてこの規定がどう適用されるかは、事案の内容によって判断が分かれるため、事前に税理士の確認を得ておく必要があります。

さらに、合併や分割といった組織再編を伴う場合には、別の枠組みが適用されます。一定の要件を満たす適格な再編に該当するかどうかによって、繰越欠損金を引き継げるかが変わります。要件の判定は複雑であり、専門的な検討が求められる領域です。

デューデリジェンスでは、繰越欠損金の残高と発生した事業年度、繰越の期限を確認します。あわせて、それが本当に使える状態にあるかを検討します。金額として残っていても、期限が近い、あるいは制限規定に該当するのであれば、実質的な価値はありません。価格の交渉において繰越欠損金を材料とする場合は、この使える見込みを踏まえた議論が必要になります。

譲渡側としては、法人の繰越欠損金の状況を整理して説明できるようにしておくことが有効です。ただし、これを価格の上乗せ要因として過度に主張すると、実際には使えないと判明した際に交渉の信頼を損ないます。医療分野に詳しい税理士に、適用の見込みを含めて確認を依頼しておくことをおすすめします。
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